仕事に一生懸命に励み、怠けたいという気持ちが弱くなると「人生における通常の困難の大部分から脱却」できます。
1日のうち、仕事をしている時間は長いものです。この時間をどう過ごすかは、人生の幸福に大きく関係します。

カール・ヒルティ(1833年-1909年)は、スイスの議員、法学者、哲学者、文筆家として知られていて、日本では今回ご紹介する『幸福論』の著者として有名です。
100年以上前の幸福に関する著作から、仕事のコツを教えてもらいましょう。

『ヒルティ著作集〈1〉幸福論』カール・ヒルティ著/白水社

でも、100年以上も前だと、働き方もずいぶん違うのではないですか?

私もそう思ったのですが、今でもというより、多くのビジネス書で読んだ内容が書かれていて驚きました。
ヒルティのすすめる内容とはどのようなものでしょうか。

仕事にはまず取りかかること

「特に二三のちょっとしたこつーそれによって習慣的な勤勉が容易になるようなこつがある。それは次のようなものである。」というヒルティからコツを教わりましょう。

第一のコツは着手すること

第一は、ー着手しうるということである。仕事に向かって腰を据え、おのれの精神をその事柄に向けるという決心、これが結局最も困難なものである。ひとたびペンなり鍬なりを手にして、最初の一字を書くなりあるいは一打ちをするなりしてしまえば、事柄は既にぐっと優しくなっているのである。ところが人々によっては、 始めるのにいつも何かが足りなくて、準備ばかりして(その背後にはかれらの怠惰が隠れている)なかなか手をつけない(後略)

『ヒルティ著作集1』20ページ

ああ、何だかずばり言い当てられている感じがします。

さらに「必要に迫られるにいたると、今度は時間が足りなくなったための切迫感から、精神的だけでなく肉体的な発熱まで伴って、仕事を台なしにするということがある。」とも言っています。
どこかで出会ったことがあるような場面ですよね。

先延ばしをせずに、時間を決めて仕事を行う

また他の人々は、特別なインスピレーションを期待しているが、そうしたものはむしろまさにその仕事をやり、仕事の間に起こってくるほうが多いのである。仕事をしている間に、その仕事がわれわれの以前に考えていたのとはいつも違ったものになってくるということ、また休息時では、決して仕事をしているその時のように充実した着想、またしばしばまったく思いがけないような変わった着想が、油然と沸いてくるといったようなことはない。これは一個の (少なくとも筆者の)経験的事実である。それゆえ、絶対にのばさないこと、また容易に何か身体の不調とか、あるいは精神的な気の向かなさを口実にしないということが大事で、毎日一定の、 適当な時間を仕事にささげることが必要である。 

『ヒルティ著作集1』21ページ

引用が長くなりましたが、まとめると
・やる気やアイデアなどが自然に湧くのを待たない
・休んでいても、いいアイデアは生まれない
・先延ばししない
・体調不良や気の向かなさを言い訳にしない
・とにかく仕事にとりかかる

どれもビジネス書や自己啓発本で読んだ内容ばかりです。

とにかく仕事に着手することの大切さが繰り返し書かれています。

今日の最も必要なことをやってやろうと、とにかく決心をつけるものである

君にとって最もやさしいところから始めるがいい。ともかく始めることだ。

他のブログにも繰り返し書いている、取りかかることを本書でも強くおすすめしています。

想像力に気を付けて、今日1日に集中する

心配や不安は、私たちの想像する能力から生まれます。仕事に不要な過度な想像力の虜にならずに、今日や今に集中することの大切さについて教えてくれています。

「あすのことを思いわずらうな、一日の苦労は、その日一日だけで十分である」(マタイ七・三四)

今日1日に集中して仕事を行う

人間は想像力という危険なものを恵まれているが、これはかれの実力以上、はるかに広い活動領域を持っている。想像力は人間が意図する仕事の全部を、なすべきはずのものとしていちどきに眼の前に展開する。

『ヒルティ著作集1』22ページ

やることがたくさんあって、どうしたら良いか分からない状態に陥る原因は、私たちの豊かな想像力にあります。
ヒルティは、「ただ今日のために働くように」と進めていますし、タスク管理を行って現状を把握するのもおすすめです。

今日に集中するってできているようだけど、意外にそうでもないのかなあ。

1番重要な仕事が分かっている日は、あえて、計画もタスク管理もせずに、まずはじめることもおすすめです。

不安を感じないように工夫する

第二の点は、恐怖を持たないということである。(中略)特に人間の空想力は苦悩の持続を実際よりも大きく長く想像させるものであって(後略)

『ヒルティ著作集1』144ページ

「物事それ自体ではなく、物事についての見解が、人間を不安にするのである。先入観が人を怖がらせるのだ。」とも書かれていますが、恐怖や不安が、事実よりも物事を大きくそして大変に見せるので、正しく事実を把握することは大事なことです。

多くの仕事をしようとする者は、あらゆる無益な精神的の、おそらくはまた肉体的の雑事を注意深く避けなければならぬ。そして精力を、自分の為すべきことのために蓄積しておかなければならない。

『ヒルティ著作集1』24ページ

恐怖や不安はまた、気持ちが疲弊する原因にもなりますので、むやみに不安に思わないよう、タスク管理を行い正しく物事をとらえられるようにすることをおすすめします。

最高の環境はないと思って取りかかるように

次に大事な点は、自分自身をうるさ型にしないことである言葉を換えて言えば、時間、場所、位置、気乗り、雰囲気などに長い準備工作をしないことである。

『ヒルティ著作集1』182ページ

やる気がないとか、周囲がうるさいとか、まあいろいろな言い訳を「うるさ型」と表現しているのですね。

気乗りは、始めてしまえば、おのずと生じてくる。そして最初にはよくある或る種の疲労感のようなものは、それが実際に身体の原因から来ているのでなければ、仕事に対してたんに受身でなく、むしろ攻めにまわれば、消えてなくなるものである。

『ヒルティ著作集1』183ページ

はじめれば、やる気は出てくるし、仕事に積極的に取り組むことで疲労感も感じにくくなりますね。
「あらかじめ思考を集中するとか、仕事のことを思いめぐらすとかいうのは、たいがいは口実であって」とも書かれています。100年前のビジネスマンも今の私たちと同じ困難を味わっていたようですね。
また、「時間の細切れを利用する」ことの有用さについても触れられています。

多くの人々は、いつも仕事に取りかかる前に、何の邪魔もはいらない広大無辺な時間のひろがりを眼のあたりに持ちたいと思うから、そのために時間がないのである。(中略)特にほんとうに何者かを生みだそうという精神的仕事の場合には、最初の一時間、あるいは往々最初の三十分が最善の時間だといっても、決して誇張ではない。

『ヒルティ著作集1』184ページ

実際に何の邪魔も入らない自分だけの時間を生み出すのも困難ですし、長時間の理想的な環境が準備されても私たちの仕事をする集中力は無限ではないとも書かれています。

まあ、そうなんですが、理想の環境があると理想の自分が理想通りの仕事をやってくれると妄想してしまうんですよね。

仕事に集中するために必要な気分転換方法

仕事を変えることが気分転換になる

よい仕事をするためには、元気も感興もないのに仕事をつづけないことが必要である。いかにも着手のときは、気分が出なくてもやらなければならないがーさもないと、だいたいまったく仕事を始めないことになるー、仕事の結果ある程度の疲労が生じたら、ただちに中止すべきである。さりとて、その際仕事することそれ自体をやめてしまう必要はまったくなく、通常の場合たんにその特定の仕事をやめればいい。なぜなら、仕事を取換えることは、必要な休息とほとんど同じくらい元気を回復させる。

『ヒルティ著作集1』23ページ

仕事を換えることで気分転換になり、仕事を効率よく続けることができることを伝えています。

これは確かにそうですよね。ぼくも集中して考える仕事の後には、考えない作業的な仕事をいくつか準備しています。

サトウさん、いいですね!
さらに著者は「そしてこのやり方にある程度熟達するとーこれは考察よりもむしろ練習の結果得られるものであるがーわれわれはほとんど終日はたらきつづけることができる。」とも言っています。

終日働き続けるって表現はちょっと怖いけど、100年前の人もよく働いていたんですね、きっと。

働くことは健康に良い

気分転換とはちょっと違いますが、集中力を保つために健康でいることも大事な事です。

規則正しい仕事こそ、特に中年期においては、肉体及び精神の健康を保持するところの最善の方法であるということ(後略)

『ヒルティ著作集1』180ページ

まあ、確かに仕事のおかげで規則正しい生活を送れているところはありますよね、通勤もウォーキングになっています。

この当時は1週間のうち6日働くことが当たり前だったようで、6日働いて7日目には休養することで、体の健康を保持し多くの悪い習慣を最初から不可能にすると書かれています。悪い習慣を行うにも時間が必要なので、確かになるほどです。

(前略)すなわち働くもののみが、快楽と休養の何たるかを知る、というのも正しい。前もって働いていない休息は、食欲のない食事と同じような快楽でしかない。

『ヒルティ著作集1』26ページ

確かに、もう仕事をしなくていいから、ずっと休みだよと言われると休みの楽しみもまた減るのかも。

もちろん、仕事のやりすぎということも起る。これは特に、人が仕事の際に。その結果、すなわち出来上ったものだけに執着して、働くこと自体を愛さない場合、つねにそういうことになるものである。

『ヒルティ著作集1』180ページ

多くの方が短くても1日8時間、週5日働いているので、自分の仕事を好きになれた方が幸福度は高まりますね。仕事は人間の幸福の一つの大きな要素でもありますが、「仕事なしでは実にこの世に幸福はない 」とまで言い切っています。あなたはどう思いますか?

さらに幸福になるための考え方

ここからは仕事に限らず本書『幸福論』から、皆さまにおすすめしたい考え方を3つご紹介します。

新しい習慣形成は人生最大の防御の一つ

第一の主要規則として、われわれはこう考える。われわれはつねに、消極的に何かの習慣をやめようとするより、むしろある習慣をつけようとしなければならない。なぜなら内面生活においても、攻撃に出る方が、たんに防禦にまわるよりもずっと容易だからである。

『ヒルティ著作集1』143ページ

攻撃は最大の防御というのは、人生にも応用できるんですね。

新しい習慣を身に着けるのは大変ですが、必要なコツをつかむと習慣化しやすくなります。こちらのブログでもご紹介していますので、参考にしてください。

不幸は幸福のために必要なもの

それは、不幸は人生にどうしても必要な物だ、いやいささか逆説的に言えば、不幸は幸福に必要なものだということである。一面、事実上の人生経験が示すように、不幸は不可避的なものであるから、すでにそのためにもわれわれはこれと何とか折れ合わなければならない。

『ヒルティ著作集1』234ページ

影があるから光もあるので、どちらかだけというのは存在はできないものですね。

それでも幸せだけの人生を歩みたいという気持ちはあります。

私もそう思います。
私たちの人生には残念ながら不幸せは必ず起こるので上手に折り合いを付けていきたいですね。不幸せを感じた時のストレスとの折り合いをつけるヒントをこちらのブログでご紹介しています。

とにかくはじめる

ただ、すべての良き習慣を網羅した表を第一につくるよりは、一つの良い習慣を実際にはじめる方が、はるかに目的にかなっていることは、読者もすぐ気づかれるであろう。

『ヒルティ著作集1』154ページ

はい、これはタスク管理パートナーさんにもいつも言ってもらっているので大丈夫です!いつも先延ばししていたぼくを懐かしく思い出すことができているのはこのサービスのおかげです!

サトウさん、ありがとうございます!行動はやはり大事ですが、なかなか行動に移せない方のサポートをいつもしています。
最後に、ヒルティを日本に紹介した明治の末に東大で哲学を講じたケーベル博士の言葉を紹介します。

私が読者に与ふるを敢てする唯一の好意的忠言は、潜入の見を棄ててヒルティを読み、この著者の考方に能く親しみ、その中に沈潜しさうして己が生活をそれに従って整頓するやうに試みたまへ、との一言である。

『ヒルティ著作集1』294ページ

あなたが今よりさらに幸せになるための仕事のコツや方法をベーシックサポートプランでご一緒に考えていきましょう。